2015年7月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

関連リンク

無料ブログはココログ

1.森の小さな宿

 イバラードの森の中に、小さな旅人の宿がありました。
 ジーマの停車場からも、街道からも、ほど近いところにありましたので、たくさんの旅人がとまり、なかなかにはんじょうしていました。

 宿がはんじょうしているのには、もうひとつわけがあります。
 この宿を切りもりしているのは、ご主人のギリさんと、おかみさんのノコさんでした。
 ギリさんはむかしりょうしをしていたので、魚やけものをとるのが得意です。
 ノコさんは、ギリさんがとってきたえものを、うでをふるって料理します。
 これがたいそうおいしいと評判で、なかには料理だけ食べに来る人もいたほどでした。
 ノコさんがいちばん得意なのは、きのこを使った料理。
 イバラードの森にはにょきにょきとたくさんのきのこが生えています。きのこ料理専門のレストランや、きのこグッズを売る店もあります。
 食べるきのこだけではありません。きのこでできた家だってあります。
 ノコさんがうっかり小さなきのこの家をシチューに入れてしまい、住んでいたねずみの一家にたいそうおこられたこともありました。

 ある日、ギリさんは、森の停車場にお客さんを見送りに行きました。
 ジーマが発車するのを見とどけて帰ろうとしたとき、ギリさんはふと、ホームに、女の子がひとりぽつんと立っているのを見つけました。
 女の子は五つか六つぐらいのようでした。だれかをさがしているように、あたりをきょろきょろと見回しています。おむかえの人を待っているのでしょうか。
 このあたりじゃ、見かけない子だなぁ。
 何となく気になって、ギリさんはしばらく見ていましたが、いつまでたってもだれもあらわれません。
 そこでギリさんは近づいていって、女の子にたずねました。
「どこから来たの?」
 女の子はううん、と言うように首をふりました。
「だれかおむかえが来るのかな?」
 やっぱり女の子は首をふるだけです。
「おなまえは?」
「…かんな…」
「カンナちゃん?」
 女の子はだまっています。
 ギリさんはとりあえず、女の子を宿へつれて帰ることにしました。
「おやまぁ、新しいお客さんかい?」
 ノコさんはギリさんのお連れにびっくりしましたが、さっそくあたたかいきのこスープを用意して、女の子にごちそうしました。

 宿のお客で、女の子を知っている人はだれもいませんでした。
 女の子も、何を聞かれても首をふるか、
「…わかんない…」
 と答えるだけです。自分のことは、名まえすら覚えていないようでした。
 ふたりは女の子をカンナちゃんと呼ぶことにしました。

 カンナちゃんは手に不思議なものを持っていました。ペラペラの紙に、ほんものそっくりの姿かたちがえがかれているのですが、ソルマのように横から見ることはできません。
 それはいつぞやスイテリアから来たという旅の人が持っていた、『写真』という物によく似ていました。
 『写真』には、赤くてとがった三角の塔のようなものがえがいてありました。

 宿にはときどき、歳や性別のよくわからない客、種族さえあいまいな客もやってきました。だからノコさんもギリさんも、たいていの客にはおどろきません。それに、そういうお客は、知らぬ間に姿を消していることも多かったのです。魔法使いの多いイバラードでは、それがソルマでないという保証もありませんしね。
 でも、カンナちゃんのようにいかにも幼い女の子がひとり、というのははじめてのことだったので、ノコさんもギリさんもちょっと心配になりました。
「とにかくこの子を知っている人を探さなきゃねぇ…」
 ふたりは来るお客さんみんなに、カンナちゃんのことをたずねましたが、やっぱりだれも知りません。
 けれど、カンナちゃんはさびしがってはいないようでした。あいかわらずしゃべることは少なかったけれど、いつも楽しそうにノコさんやギリさんのお手伝いをするのでした。

2へ

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

最近のトラックバック