2015年7月
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3.トラベラーズ・ショップ

 あぁそうだわ、あそこへ行ってみよう。
 ノコさんはふと思いついて、市場のはずれのとある店を訪ねました。
 そこは、この宿をひいきにしてくれている、観光案内所《トラベラーズ・ショップ》でした。イバラードへやってきた人がとまる所を探していると、いつも真っ先にノコさんとギリさんの宿をしょうかいしてくれるのです。
 店長のチヤキ・カノさんは、顔も広くてイバラードのいろんな所をよく知っていますから、何か教えてくれるかもしれません。
「こんにちは、チヤキさん」
「おや、これはノコさん。」
 チヤキさんはノコさんとカンナちゃんに香りのよいお茶をふるまい、ノコさんはチヤキさんにカンナちゃんのことをたずねました。
「……」
 チヤキさんはだまってカンナちゃんの目をのぞきこみました。カンナちゃんはその視線にすいこまれるように、見つめ返しました。
「カンナちゃんのこと、知ってるのかい?」とノコさんが期待をこめて聞きますと、チヤキさんは口のはしにみょうな笑みをうかべて、
「…まァ、知ってるとも知らないとも、言えますね。」と答え、こう続けました。
「前にもよく似た子を見かけた気はするのですが、もうどこかへ行ってしまいました。」
「じゃあ、その子では?」
「いいえ、ちがいますね。…この子の持っていた『写真』を見せてもらえますか。」
 するとカンナちゃんが自分のポケットから取り出して、チヤキさんに手わたしました。
「どれどれ…ふうむ、なるほど…」
 チヤキさんは写真をつまみあげ、裏返したり、そこに焼き付けられ、平べったくされた塔にじいっと見入ったりしながら、
「うーん、こんな塔は見たことがないな…イバラードでは。ちょっと待ってください。」
 チヤキさんは事務所のおくのたなから本のようなものを出してくると、開けて切手ほどの小さなチップをいくつも取り出しました。
「こころあたりはこの辺かな…」
 チヤキさんがチップからソルマを再生させてみせましたが、どれも例の赤い塔とはちがうようです。
「困ったねぇ。チヤキさんも知らないとなると…どうしたもんかねぇ。」
「ひとついい考えがありますよ。空からこの塔を探すんです。」
「空から?」
「ええ。今からみんなで『飛行士のカフェ』へ行ってみませんか?」

  チヤキさん、カンナちゃん、ノコさんは連れ立って案内所を出ると、また市場の中心に向かって歩き始めました。
 三人が、紅白のねりものを売る店にさしかかったときです。チヤキさんは、なにやらあやしい人かげが、自分たちの後をつけているらしいことに気づきました。
 なんだろう?べつに何か変なことをした覚えはないが…
 チヤキさんは横目でちらりとあたりのようすをうかがうと、
「それっ、走れ!」
 言うが早いか、カンナちゃんの手をとり、一散にかけだしました。ノコさんはあわてて大事な買い物袋をしっかりと両わきにかかえ、後を追いかけました。
 同時に後ろでどたんがたんと机をひっくり返すような音がしましたが、三人はふり返らずにどんどんかけてゆきました。

 くずれた台をおしのけ、赤いかまぼこや白いはんぺんの山からはいだしたのは、なんともおかしな人物でした。白いうわっぱりを着た体の上にちょんと乗っかった大きな頭は、目も耳も口もなくまるで透明な風船のようで、中にたまった水の中に、脳みそのようなものがぷかりと浮いています。ずっと後ろにかくれてあとをつけていたのは、このみょうな男――『男』であればの話ですが――だったのです。
 頭が脳みその男は、頭をふりまわしました――いえ、きっとあたりを見回したのでしょう――が、どうやら、三人を見失ってしまったようです。
「アヤシイ…」とつぶやいたかと思うと、ふところから何やら通信機のようなものを取り出し、頭におしあてて、そのまますたすたとどこかへ歩き去ってしまいました。

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