2015年7月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

関連リンク

無料ブログはココログ

4.巡回飛行士

 三人がたどりついたのは、市場のはずれにある『飛行士のカフェ』と呼ばれるお店でした。複葉機などの飛行器械に乗り、村村をまわっていろんな仕事をしたり、曲芸飛行を見せたりする、巡回飛行士たちの集うところです。
 きのこのようなおもしろい形の柱にささえられた高い天井は、空が透けて見え、ピカピカにみがかれたテーブルが並べられて、飛行士らしい人たちが、思い思いの場所でお茶を飲んだりおしゃべりしたり、タバコをふかしたりしています。おしゃべりの内容にあわせてか、タバコのけむりの形は飛行機になったり船になったり、鳥やけもの、時に花火のようにはじけたりと、さまざまに変わるのでした。
 チヤキさんはカウンターで、店の主人に念のためカンナちゃんのことをたずねましたが、やはりわかりません。飛行士を紹介してほしいと頼むと、主人は窓のほうを指さしました。「あそこのテーブルで、お茶を飲んでるの、若いが腕はいいよ。」
 三人はお礼をいい、その窓ぎわのテーブルへ行きました。
「こんにちは。店のご主人からのしょうかいで…」
と言いながらチヤキさんは小さなシンセスタのかけらを差し出して、きゅっとひねりました。
 たちまち四角い建物のソルマがうかび、中から小さな人かげが出てきて、こちらに向かってペコリと頭を下げあいさつしました。よく見るとそれはチヤキさんのようです。小さいソルマのチヤキさんはソルマの建物の中へ人をまねくように入ってゆき、今度は中のようすのソルマに姿が変わりました。どうやら、これはあの観光案内所をしょうかいしているようです。
「…と、わたしはこういう者です。それで…」と今度はカンナちゃんのことを説明しました。そして例の写真も。
 飛行士は興味深そうに写真を手にしました。「うーん…見たことがあるようなないような…」
「そうか…どうでしょう、私たちを乗せて、一度空から探してもらえないでしょうか。」
「ははぁ、なるほど…」
 飛行士は、後ろで目をかがやかせながら、でもいくぶん心配そうに自分を見つめるカンナちゃんを見て、うなずきました。
「いいですよ。ただ私の飛行機は三人乗りなので、みなさん全員をお乗せすることはできませんが…」
「おや、それなら、私はえんりょしておきますよ。」と、ノコさんが言いました。「チヤキさんがついていってくれるなら安心だからねぇ。まだまわりたいお店もあることだし。」

 表でノコさんと別れ、チヤキさんとカンナちゃんは飛行士の愛機に案内されました。年若い飛行士ですが、乗っていたのは少々旧式と見える複葉機でした。
「ちょっと年季の入ったのを、好きに整備して乗りこなすのが楽しいんですよ。さぁ、どうぞ。」
 三人を乗せた飛行機は、いつもよりちょっぴり重たそうに羽ばたき、ふわりとまい上がりました。
カンナちゃんがわあーっと大きな声をあげました。
「わたし、ひこうき乗ったの、初めて!」
 カンナちゃんが興奮してさけびました。

 飛行機はせん回して上昇気流にのり、高く上ると、ゆったりと空の散歩を始めました。
「さぁ、どうかな。あの赤い塔は見えるだろうか。」チヤキさんはカンナちゃんに声をかけました。カンナちゃんは身を乗り出すようにして、眼下の草原を見わたしました。
 ところどころに、たてものの屋根か窓らしい白い部分が、日の光をはねかえして光り、まるで真珠をばらまいたようです。遠くには、ジーマの窓から見たあのまっしろな山があり、あおい海もかがやいています。
「あれは?」とカンナちゃんが、そのはるか向こうにいくつも立っている、背の高いほっそりした塔を指さしました。…かたちは少し、あの写真の塔に似ているようでもありました。
「あれは、イバラードのとなりの、スイテリアの国さ。『写真』というのは、スイテリアでよく使われるものだからね。もしかしたらその塔も、スイテリアのものかもしれない。…きみはスイテリアから来たんじゃないのかい?」
「…ちがうと思う。」カンナちゃんははっきりと、そう言いました。いつも、わからない、というカンナちゃんにしては、めずらしいことでした。
「…なにか、思い出したの?」
「……」それには答えず、「もうすこし、あっちのほうへ行ってみたいな。」
 そして目をこらすようにして、じっと地上の景色に見入っているのでした。 

「おや、あれは…?」
 ずっとだまって飛行機をあやつっていた飛行士が、ふと後ろをふりかえって、何かを見つけたようです。同時に機体がおどろいたように少しはね上がりました。
「見つけたのかい?」チヤキさんは期待をこめて同じようにふりかえった瞬間、だまりこみました。カンナちゃんがさけびました。
「ひこうき!」
 見なれない飛行機が、少しはなれてカンナちゃんたちの飛行機を追いかけてきます。イバラードでよく見かけるエアシップとはちがう、うんと細身でとがったつばさのついた…
「あれはスイテリアの飛行機だ!」
 飛行士もさけびました。と、その飛行機はぐんと複葉機に近づいてきて横に並ぼうとします。飛行士はおっとっと、と思わず声をあげ、操縦かんをたおしました。複葉機はぐんとかたむいて、間をあけようとします。
 チヤキさんはそのとき、むこうの飛行機の操縦席に、市場で見たあのあやしい人かげに似た人物を見つけました。…いえ、人は二人、乗っていて、そのどちらがそうなのかはわかりません。何しろ二人ともまるで同じ姿をしていたのです。
 飛行士はうしろの二人に「だいじょうぶですかー!」と呼びかけました。
「だいじょうぶです! カンナちゃん?」
 カンナちゃんもこっくりしましたが、少し顔が青ざめているようにも見えます。
「いったいどういうつもりなんだ。この飛行機がスイテリア製だからだろうか。」と飛行士はひとりごとのようにつぶやきました。
「スイテリア製?」
「ええ、スイテリアで使われなくなった古いのが、イバラードに流れてきてるんですよ。しかし、今まで追いかけられたことなんてなかったぞ。」
「……」
 スイテリアの飛行機は、もとの、少しはなれた位置にもどって、なおも後をつけているようでした。チヤキさんはなんとも気味が悪くなってきました。
「もどりますよ!」飛行士は、カフェの方へ飛行機の向きを変えました。
 カンナちゃんがえっ?とおどろいたような顔でチヤキさんの服をひっぱりました。もうかえっちゃうの?といわんばかりです。
「残念だけど、またさっきみたいなことをされると、困るからね。…まぁ、今日はやめておこう。」チヤキさんはそういってウィンクしました。カンナちゃんはさも残念そうにため息をつきましたが、なっとくしたようです。
 やがて複葉機が高度を下げると、スイテリアの飛行機はすうっと向きを変えてはなれてゆきました。

「アヤシイ…」
「アヤシイナ…わが国のきたいに乗っているとは…」
 はなれてゆく飛行機の中では、あのおかしな二人がそんな言葉をかわしていました。

3へ | 5へ

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

最近のトラックバック