2015年7月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

関連リンク

無料ブログはココログ

5.ミストラル・ケイブ

 複葉機は無事にカフェの庭に着陸し、三人はふたたび店内に入りました。
 ノコさんの姿はまだありませんでした。たぶん二人がこんなに早くもどるとは、思っていなかったのでしょう。
 チヤキさんが「さあて、どうしようか」とカンナちゃんに話しかけたそのときです。
「あら?」
 聞き覚えのある声がして、チヤキさんがその方を見ると、店のカウンターのはしに、若い女性がひとりですわっていました。細かく波打つ髪が肩までのびてふわりと広がり、小粋にくんだ足には赤いブーツが光っています。
「おや!これはお久しぶりです、タキオさん」
「ほんと、お久しぶりね。お元気?」
 顔なじみの魔女の、タキオ・ホ・ウェンさんでした。
 彼女を見て、またもやチヤキさんはあることを思いつきました。
「ちょうどいいところで出会いました、実は…」
 チヤキさんはカンナちゃんと写真のことをタキオさんに話しました。
「…それで、タキオさんのミストラル・ケイブを使えば、何か手がかりがつかめるのではないかと…」
タキオさんは興味深そうにうなずきながら、
「なるほど、前にも似たようなことがあったわ。いいわよ、うちへいらっしゃいな。ぜひやってみましょう。」と答えました。
「でもそのまえに…」とタキオさんは続けて、飛行士に何かささやきました。飛行士はにこやかにうなずいて出て行きました。
「ちょっとお使いをたのみました。では行きましょうか。」

 市電とジーマをのりついで、三人はタカツングとの国境に位置する高台までやってきました。いくつも風穴の開いた巨大な岩の前に、番をするかのようにたっているのが、タキオさんの家です。
  そのリビングで、タキオさんはカンナちゃんの写真を手にしました。
「ふうん…カンナちゃん、この写真の場所を覚えてる?」
 カンナちゃんはううん、と首をふりました。
「そうか…そうよね。じゃあ…それはどんな場所だと思う?」
 うーんと考えこむカンナちゃんを見て、タキオさんはソファの後ろから、きれいな細工のほどこされた箱をとりだし開きました。
 中には虹色にかがやく四角い石があり、花火のような光を辺りにまき散らしました。カンナちゃんは花火におどろいて目をパチパチさせました。
「大きなシンセスタですね。」とチヤキさんが感心して、うっとりと見つめました。
 フフフとタキオさんはほほえむと、一方の手で写真を手に取り、もう一方の手をシンセスタにかざしました。
「だいじょうぶよ、カンナちゃん、この光はソルマだから、じっさいに火が燃えているわけじゃないわ。さぁ、もう一度、その場所を想像してみて。」
 カンナちゃんは花火を見つめたまま、何かを思いうかべたようです。
 するとどうでしょう。シンセスタがさらに光を増し、中から、赤い塔のソルマがゆっくりとうかび上がってきたのです。
 ソルマの塔は、写真よりはっきりと形が見え、塔が四本の足で支えられていることもわかります。
「うん…やっぱりね…カンナちゃん、きっとこの塔の近くに行ったことがあるのよね。それを忘れているだけだわ。」
 カンナちゃんは、ソルマをじっと見つめて…ふっと目をそらしました。それはどこか大人びたしぐさのように、チヤキさんには見えました。
 そのとき、おもてでバタバタという音がしました。聞き覚えのある、複葉機の羽ばたき音のようです。
「まぁ、ちょうどいいタイミング。」タキオさんが出てゆき、もどったときにはあの飛行士と、もうひとりの若い女性がいっしょでした。ぴったりしたドレスを身につけ、髪を頭の上できゅっとまとめたその美しい女性もまた、魔法使いのようです。チヤキさんは知り合いらしく、まっさきに声をかけました。
「おお、これはニーニャさん。」
「あら、ごぶさたね、チヤキさん。」 
「どうです、お店のほうは?何か新しい商品でも入りましたか?またうちでしょうかいしますよ。」
「えぇ、そうね――」ニーニャさんと呼ばれた女性が思わず答えようとしますと、
「まぁ、商売熱心ね、チヤキさん。」とタキオさんがちょっぴりとがめるように言います。おっとこれは失礼、とチヤキさんが苦笑いしました。
「ニーニャにはちょっと力を貸してもらおうと思って。」
「なるほど、これがその塔なのね。」ニーニャさんはテーブルの上に出現しているソルマを見てうなずきました。
「そうなの。じゃ、そろったところで、ミストラル・ケイブへ行きましょう。」

 みんながタキオさんの家の背後にある巨大な岩、『ミストラル・ケイブ』の中へ移動しているころ、外にとめられた複葉機の近くに、丸い小さな飛行機械が着陸しました。中から現れたのは…そう、先ほど複葉機を追いかけていた、脳みそ頭の奇妙な二人です。
「魔法使いが増えたな…」
「増えたね…アヤシイ」
「やっぱりアヤシイ」
またもやそんな言葉を交わして、二人はそそくさとミストラル・ケイブへ向かってゆきました。

 ミストラル・ケイブとは、それ自体がシンセスタでできた、巨大な洞くつ岩でした。内部はまるで迷路のようにトンネルや空間がめぐらされ、ソルマをさまざまに加工できるといいます。
「この部屋がいいかしらね」とタキオさんがみんなを案内したのは、四方に出入り口を持つかなり広い空間でした。
 タキオさんとカンナちゃんが並び、その向かいにニーニャさんが立ち、円状に飛行士と、「わたしには魔法使いの力はありませんが…」というチヤキさんも並びました。ニーニャさんはまとめていた髪をほどきました。長い髪が肩の下まではらりと流れました。
 タキオさんは写真を手にして、カンナちゃんに「もう一度さっきみたいに、思いうかべてみて」と声をかけました。
 カンナちゃんは、ちょっとためらうような顔つきで、それでも何かを考えるように目を閉じました。
 すると…
 みんなで作った円の中心あたりに、またあの塔が、今度はもっと大きなソルマになって現れました。はじめのソルマよりさらに細かいところまでわかります。その色はもっと赤く、そして光かがやいていました。
「塔の上のほうを見て!」とニーニャさんが叫びました。「四角いてんぼう台のようなものがあるわ。あれの窓ガラスのうつりこみを使えば、きっとまわりの景色も再現できるはずよ。」
「いいわね、やってみましょう!みんなで塔の窓ガラスを見て!」

 まるで塔がばくはつしたかのようでした。塔は見る間に大きくなり、てっぺんが天井を突き抜けてゆきました。赤い骨組みでできた足は部屋からすっかりはみだし、かろうじて一本が残っています。
 塔の足元からは、かたい道路と、見たことのないような、かたく冷たい建物が、あたり一面に広がっていました。道路には、丸い車輪のついた車がいくつも走り、大勢の人びとが行き交っています。その姿、服の感じは、イバラードでもスイテリアのものでもないようでした。
 みんなはしばし、あっけにとられてそのけしきに見とれていました。
「これは…イバラードでも、スイテリアでも、タカツングでもなさそう…」タキオさんがつぶやきました。
「わたしもほうぼう飛びましたが、見たことのないけしきですね」と、飛行士も言いました。
「どこなのかしら…」ニーニャさんも不思議そうに言いました。
 なにか、鼻をすするような音が聞こえて、タキオさんがそちらを見ると、チヤキさんが涙を浮かべています。
「チヤキさん?」
 けげんな顔をしたタキオさんに、チヤキさんは「いや、ちょっとごみが入って」とひとこと返しただけでした。
 そして肝心のカンナちゃんは…目を細め、口元をきゅっとむすんで、身動きひとつしません。けれど、それはつかの間でした。顔をくしゃっと今にも泣き出しそうにゆがませ、「かえりたい…」とつぶやいたのでした。

「これはちがう」
「ちがうな」
 部屋の入り口からこっそりとのぞいていた、あの二人組は、そうつぶやきました。ひとりが服の内から小さな機械をとりだすと、頭に押し当て、ブンブン言わせてからまたしまいこんで、
「任務完了。」ともうひとりに告げました。
 それが合図かのように、二人はすたすたと外へ歩き去って行きました。

「やっぱり、あなたはこの場所にいたのね。このソルマは実際に見たとしか思えないぐらい、とてもはっきりしているもの。」
タキオさんがぶんせきするようにカンナちゃんに語りかけますと、カンナちゃんはこっくりうなずきました。
「かえらなきゃ。」

4へ | 6へ

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

最近のトラックバック